豪雨における水害と感染症

水害のときにもっとも問題となるのは、感染症になると考えます。水害時における救護活動、及び、その後の防疫活動においても感染症における治療の知識・対処法などは知って置くべき事項のひとつになります。

水害で予想される感染症は、次の3点に大別できます。

  1. 衛生環境悪化に伴い増加する可能性がある動物媒体による感染症
  2. 擦過傷などの創部が汚染水と接触することによる感染症
  3. 避難所での集団生活で危惧される感染症

これらの詳細については成書を参考にされると良いでしょう。

この中でも、現在、日本でみる機会が少ない動物感染症について下記にまとめます。(詳細について、下段にまとめました)。

  • マラリア
  • デング熱
  • 日本脳炎
  • 発疹腸チフス
  • レプストラピラ症
  • ハンタウイルス症

これらは、日常の診療ではなかなか目にすることのない感染症です。また、1999(平成11)年に『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』が施行され、2003(平成15)年に改正法が成立、施行されています。本法律は、これまでの伝染病予防法、性病予防法、AIDS予防法を廃止・統合して制定されています。医療関係者のみならず、学校保健法にも関係してきますので、学校関係者も知っておく必要があるものと思います。

 近年は、豪雨災害が頻繁に起きていることからも、医師・看護師のみなさんも再度成書にあたり、各院内での対策をまとめておくことをおすすめします。厚生労働省においては、災害時のペットのしつけは飼い主にその責務があるとの見解が出されています。環境省も避難に当たって望ましい避難の仕方という枠組みを作成しています。よって、飼い主のみなさんへの周知徹底も図るべきであると思われます。近年、高齢者のみの世帯においては、ペットを飼いたいとの申し出が多くあるそうです(これは愛知県豊橋市にある愛知豊橋愛犬警察犬訓練所の齋藤孝所長にお伺いしています。ここでは愛知県のみならず、大阪府や東京都からも依頼がきています)。

また、高齢者医療負担額はそれ相応の金額で済みますが、ペットにおけるワクチン接種や治療については、ペット保険(私的保険)なるものが出ていますが、その加入率は少ないものと思われます。

よって、全てが自費診療(10割負担になります)になることを医療事務の方も周知徹底を計られることをお勧めしておきます。患者さんは、意外に自分よりもペットの方の診療代が高いことを知らないかもしれません。

すると、混乱の元になりがちです。健康保険法の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)において、2006(平成18)年10月1日より、従前の特定療養費制度が見直しされ、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な「評価療養」と、特別の病室の提供など被保険者の選定に係る「選定療養」とに再編成されました。この「評価療養」及び「選定療養」を受けたときには、療養全体にかかる費用のうち基礎的部分については保険給付をし、特別料金部分については全額自己負担とすることによって患者さんの選択の幅を広げようと意図して行われたものです。参照ページ先進医療の概要について

2018-07-19:東京医科大学八王子医療センターにおかれましては、時間外選定療養費の徴収についてとして、8,640円(税込)を徴収する旨、病院長名で文書が出ています。下記に表します。問題があるようでしたら、お手数ですが、ご連絡くださいますよう、よろしくお願いいたします。すでに昨年の10/02付けで出ています。二次救急、三次救急受け入れ先です。)

時間外選定療養費の徴収について(お知らせ)


また、開業医さんにて、紹介状を書いてくれという患者さんは、増えているようです。加えると、昭和20(1945)年1月13日、三河地震の際の記録に一部このような記録があります。破傷風発病の人があっても血清がないなど、看護する者としては辛く心が重かった。(百年史ー日本赤十字社愛知支部ー昭和63年発行)東日本の震災時には、そのようなことはなかったとお聞きしておりますので、心配はないものと思います。愛知県知多保健所の『東海豪雨報告書』にも水害は伊勢湾台風以来の水害で、家屋等の消毒に関する相談が多く寄せられた。このことは感染症に関する高い認識が高いと思われた。との記録もあります。同時に、保健師さんに問い合わせをしたところ、高齢者や有病者の日頃からの認識の必要性や健康上の問題だけではなく、生活全般に不安を抱えていることに配慮が必要である。災害発生時には、それぞれの機関が必要な情報を収集しようとするため、災害が発生した市町村に様々なルートから情報収集の問い合わせが殺到し、その結果、かえって、情報の遅延が起こり、かつ正確性の高い情報が確保できない。また、災害からくる疲労等が原因と思われる結核の新規登録例が3例あったとの記録もあります。

下記に主だった水害により予想される感染症とその対症療法についてまとめます。(参考:臨床看護 2012.6 Vol.38.No7 :へるす出版)


マラリア

病原体:マラリア原虫

媒介動物:ハマダラカが媒介する。ハマダラカは9種類いるが、このうち感染症を引き起こすのは4種類である。

分類:亜熱帯マラリア、卵型マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリアの4種類あるが、ほとんどは亜熱帯マラリアである。

わが国の流行:大正から昭和初期にかけては数千人規模の大流行であったが、現在は年間100〜150例程度で、ほぼすべてが輸入感染である。

症状:悪寒戦慄を伴う熱発、頭痛、倦怠感などの非特異的症状。

治療:クロロキシンなどの抗マラリア薬を投与するが、日本のほとんどの病院には抗マラリア薬が常備されていないため、感染症専門機関へ問い合わせる必要がある。

予防:虫除けスプレー、蚊帳などの蚊対策をしっかりと行う。ハマラダカは夜間吸血性があるので、とくに夜間の蚊対策が重要である。

デング熱

病原体:デングウイルスによる。4つの血清型がある。

媒介動物:ネッタイシマカとヒスジシマカが媒介する。

わが国での流行:戦時中、湾岸都市を中心に流行した。戦地から帰港した船に病原体をもつ蚊が潜んでいたことに加え、戦時中に設置が義務付けられていた防火水槽内で蚊が繁殖したことも原因と言われている。現在は、年間50例程度で、すべて海外からの輸入感染である。

症状:発熱、関節痛に加え、発症3日後頃より体幹・四技に生じる発疹が特徴的である。デング出血熱と呼ばれる重症型がある。

治療:対症療法である。ワクチンは存在しない。アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬はアシドーシスや出血傾向を助長するため避ける。

予防:日中から蚊対策が必要である。

日本脳炎

病原体:日本脳炎ウイルス

媒介動物:コガタアカイエカが媒介する。この蚊はブタの体内で増幅される。

わが国の罹患数:ワクチン接種が行われるようになってからは著しく減少し、現在は年間5例程度である。

症状:発熱、意識障害などの脳炎症状を呈する。発症した場合の死亡率は30%と高く、生存した場合も約半数は後遺症を残す。

予防:ワクチン接種が推奨される。2005年に厚生労働省による積極的接種勧奨差し控え以降、ワクチン接種率が低下しており、抗体保有率が減少している。

発疹チフス

病原体:リケッチア

媒介動物:ヒトジラミ

わが国での流行:貧困・飢餓に伴い流行する。大正時代に7,000人が超える患者が発症している。

症状:発熱、頭痛、脱力感、四技の疼痛などにより突然発熱し、高熱を示す。発疹は発熱後2〜5日で体幹に出現し、その後全身に広がる。

治療:テトラサイクリン系薬

予防:シラミ対策が重要である。ヒトーヒト感染はない。

レプストピラ症

病原体:レプストピラ

媒介動物:ネズミなどのげっ歯類をはじめ、多くの動物がレプストピラを保有している。動物の尿により汚染された水が経皮的・経口的に感染する。

治療:テトラサイクリン系薬

備考:タイでは洪水の後にレプストピラ症が多発したとの報告がある。

ハンタウイルス症

病原体:ハンタウイルス

媒介動物:ネズミの糞尿や唾液中に排泄されたウイルスの吸入あるいは経皮(咬傷)接種により感染する。

症状:発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状ののち、腎症候性出血熱(腎障害と皮下出血)あるいはハンタウイルス肺症候群(咳や呼吸不全)など、多彩な臨床症状を呈する。

治療:対症療法。

2018-06-20下記を追記しました。

東海・恵南豪雨災害においての特徴的なところは、家畜の被害のみならず、竜巻が原因と思われる工業用化学薬品(毒物・劇物指定薬品)の流失に対する住民からの懸念や、それに対する疾病への対処を保健所が行っている点が特徴的かと思われます。また、被害は、愛知県のみならず他府県にも広がってることがおわかりいただけるかと思います。損害賠償請求機構レポートからの数値を取りまとめて表にしています。
2018.06.20

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